~大人の愛着障害について詳しく知って克服しよう~
愛着障害とは?
1970年頃にイギリスの心理学者で精神分析学者のボウルヴィが確立した「愛着理論」に基づく用語です。
ボウルヴィは、虐待や育児放棄などの不適切な養育を受けた子どもに、共通する行動の特徴や態度があることを発見しました。
うまく自信が持てない子や、心のコントロールに問題がある子の背景には、愛着の問題が共通していました。
目次:そもそも愛着とは?
では、不適切な養育とは?
1.養育者からの虐待
2.愛着を抱く対象がいなくなってしまった
3.複数人が交代で養育にあたった
4.兄弟姉妹や他の子どもと差別されていた
普通の家庭環境だった場合は?
大人の愛着障害の特徴・症状
1.愛着対象から離れる事への不安
2.他人の要求に過度に合わせてしまう
3.自分で選んだり決めたりできない
4.こだわりが強い
5.自分を傷つける
6.複数のパートナーと次々関係を持つ
愛着障害の克服・回復方法
最後に
そもそも愛着とは?
「アタッチメント」といい、日本語に直訳すると「くっつき」を意味します。
赤ちゃんの時に、オムツが濡れて泣いていたら変えてもらう、おなかが減ったと泣いていたらミルクをもらう、というように、自分が求めているニーズを満たしてもらうことによって、相手を信頼していくことを学びます。
「情緒的つながり」ともいうのですが、これが「愛着」です。
こういう愛着がしっかり形成されると、心の中に「絶対的に自分を認めてくれる安全基地」が出来上がるので、徐々に外の世界に出ていくことが出来るようになります。
(傷ついても、安全基地に戻ってこられるという安心感があるからこそ、外に向かってゆけるのです。小さな子供がヨチヨチと歩いて行けるのも、転んで泣いていたら必ず助けに来てもらえる、という信頼があるからです。)
では、不適切な養育とは?
1.養育者からの虐待
「虐待」と一口に言っても、大きく次の4つに分けられます。
・身体的虐待
・性的虐待
・心理的虐待(精神的虐待、とも呼ばれます。
脅す、嫌味を言う、罵倒するといった言葉の暴力の他、無視することもこれに当たります。)
・ネグレクト(育児放棄、育児怠慢ともいわれます。衣食住を十分に世話しないことの他、
病気やけがの際にも治療を受けさせない、精神的なケアを行わない場合なども含まれます。)
このうち、最後に挙げたネグレクトがある場合、特に愛着障害に発展するケースが高くなります。
また、虐待とは違いますが、養育者の機嫌があまりにも一定でない場合(例えば、暴力を振るわれたり、暴言を受けた後に後に優しくされる等)も愛着障害へつながりやすくなります。
2.愛着を抱く対象がいなくなってしまった
不慮の事故や病気、離婚など、幼い頃に養育者がいなくなってしまう場合です。
自分の甘えの気持ちを受け止めてくれる人がいなくなる、というのが原因です。
ただし、愛着を形成するための対象は両親でないとだめなわけではありません。いなくなってしまった養育者とは別の誰かとの間にしっかりと愛着を形成することが出来れば、愛着の感覚を持てるようになります。
3.複数人が交代で養育にあたった
様々な人から愛されて育つことはとても素敵な事です。
しかし、愛着の形成には特定の人と深く・密な関係を長く続けることが大切です。
様々な事情があるとは思いますが、複数人がかわるがわる育てるというのも愛着形成には難しい一面があるのです。
4.兄弟姉妹や他の子どもと差別されていた
養育者が、ある子どもだけに厳しかったり、冷たかったりすることも愛着障害の原因になり得ます。
もし、他の兄弟姉妹が優しくされているのに、自分だけ冷たくされたら養育者からの愛情は感じづらい、というのは容易に想像して頂けると思います。
又、兄弟姉妹でなくても、よその子にはとてもやさしい言葉をかけているのに、家で自分だけとても厳しくされていても、同様に感じるケースがあります。仮に養育者と愛着が育まれていたとしても、「自分には愛される価値がない」「自分は常に他の人より何か足りない」という気持ちを抱いてしまいます。
普通の家庭環境だった場合は?
さて。ここまで読んで疑問を持った方もいらっしゃると思います。
「自分はごくごく問題のない普通の家庭で育ったけど、愛着障害の特徴があるし、苦しさを感じている」と。
この時にポイントとなるのは、「愛着」と「愛情」とは違うということです。
例えば親が愛情をもって接していたとしても、本人のニーズに合ってなかった、という場合もあるのです。
それゆえ、親御さんが一生懸命愛情をもって接していてくれていたけれど、自分の求めていることとずれがあった、というケースもあり得るのです。
「愛情のある家庭で育ったけれども、愛着は形成されなかった」というわけです。
その際に忘れないで頂きたいのは、「必ずしも愛情がなかったというわけではない」ということです。
例えあなたが愛着障害であったとしても、すべての養育者が愛情をかけずに子育てをしていた、というわけではありません。子ども側のニーズに沿わない一方通行になってしまったかもしれませんが、愛情は確かにあった、というケースもあるのです。
養育者に怒りや恨みを感じている場合、その気持ちを今すぐ、無理に手放す必要はありません。
とはいえ、「自分が愛着障害なのは養育者が悪いからだ!」と決めつけるのは違う場合もある、という事を覚えておいて下さい。
大人の愛着障害の特徴・症状
本来、「愛着障害」とは子どもを対象にした用語でしたが、愛着障害を抱えたまま大人になったり、大人になってから生きづらさを感じて、「もしかしたら自分は愛着障害かも?」と思う方々が増えてきました。
そのため、「大人の愛着障害」という言葉が現れましたが、特に医学的にはっきりと定義された用語ではありません。
ただし、症状については分かっていることが多いので以下にまとめました。
尤も、「この症状がある人はかならず大人の愛着障害である」というわけではありません。
また、先にも書いた通り、この症状があるから、養育者との愛着が足りなかったのだ、と即座に決めつけるのも早計です。
どういう症状があるのかを知る事だけでも、もやもやとしていた自分の中の生きづらさが言語化されて気持ちが軽くなる場合もあります。又、対処法を考える礎とすることにもつながります。
まずは、純粋に「知る」ことから始めましょう。
1.愛着対象から離れる事への不安
愛着障害でなくてもある事ですが、例えば小さな子が初めて親から離れて保育園や幼稚園に行くとき、不安で泣いたりする様子をみかけませんか?大人になっても、親元を離れて一人立ちするときに、ちょっと寂しい気持ちになりませんか?この気持ちのもっと激しい感じだと思って頂けると、想像がしやすいかと思います。
「離れていても、愛してもらえている」という気持ちが腑に落ちていないので、物理的な距離を取ることもとても不安に感じます。
長じてくると、学校などで、仲良しの友達が別の友達と会話をしていると不安になる、パートナーが他人といるだけで不安になる、という形で表れてくることがあります。
2.他人の要求に過度に合わせてしまう
友人・パートナーなど、親密でいたい相手から嫌われるのが怖く、頼みごとを断れなかったり、必要以上に意見を合わせてしまったりします。
人によっては、相手が「特に大切な人」でなくても、断ったり、違う意見を言ったりすることが難しくなって、その場その場の相手に常に合わせてしまう事もあります。
(この場合、Aさん、Bさんにそれぞれの場で話を合わせたものの、2人の意見が真逆の意見で、Aさん、Bさん、自分の3人が後日集まった時に困ってしまったりします。)
幼いときに、自分で決めたことを肯定してもらったり、応援してもらったりした経験がなかったり、過度に少なかったりすることから見受けられる症状だと言われています。
3.自分で選んだり決めたりできない
何かを選んだり決めたりする時、周りの人の顔色を窺って、相手に合わせた選択や決断をしてしまいます。
相手がいるときは、相手に合わせて決めていますが、誰もいない時は、自分本来の気持ちや意見が分からなくなってしまう事が多々見受けられます。
小さい時に、相手を怒らせたりしないよう、常に気を遣う必要がある環境で育つ事が原因と言われています。
4.こだわりが強い
ある持ち物が手放せない、時間にこだわるなど、自分なりのこだわりを守ることで気持ちを落ち着けます。
逆にいうと、そのこだわりが守られない時は、気持ちが落ち着きません。
愛着対象と親密な信頼関係が築けなかった場合、その対象に対して執着を持つことがあります。
その影響から見られる症状だと思われます。
5.自分を傷つける
身体的に自分を傷つけてしまいます。
大人の愛着障害を抱える方には、普段から我慢を重ねている方、自分の気持ちを抑えている方が多いので、辛かった過去を思い出したり、自分ばかりがそんな役回りをしているのでは、と理不尽な気持ちに苛まれた時、辛さから逃れるために自傷行為に至ることがあります。
自分を傷つけている間は、精神的な辛さを忘れられるため、癖になってしまう場合もあります。
6.複数のパートナーと次々関係を持つ
愛着障害を抱えている方は、相手を信頼することと同時に、相手に信頼されることも苦手です。
それ故、好意を持った相手も自分に好意を持ってくれている、と分かって一旦親密になっても、「どうせいつか嫌われるのでは?」と心配になって、関係を自分から解消してしまいます。
相手からの信頼の気持ちにどうこたえて良いのかが分からない、と言い換えることもできます。
それでも、誰かとつながりたい気持ちは持っているので、関係を解消した方とは別のパートナーをまた探し、また別離する、という事を繰り替えしてしまいます。
愛着障害の克服・回復方法
では、愛着障害を克服するにはどうすればよいのでしょうか?
最も有力な手段は、信頼できる関係をもう一度構築し直す、ということです。
相手は親(養育者)でなくても、友人でもパートナーでも、誰でも構いません。
心の底から信頼しあえる関係を作り、体感することが大切です。
身近にその相手を探すことが難しい場合、相談相手としてカウンセラーを選ぶのも有効です。
もうひとつ。自分が心から「安全」「安心」と感じられる場所を確保する事です。
(心の安全基地といいます)
場所と書きましたが、この音楽を聴くと気持ちが落ち着く、ココアを飲むとホッとする、等のシチュエーションでも大丈夫です。
そのために、自分自身の気持ちや考えをしっかり感じ取る練習をするのも大切です。
湯船につかっている時が一日で一番幸せ、音楽も好きだけど環境音(最近は川せせらぎ、小鳥の鳴き声等のCDやYouTubeチャンネルもあります)も好き、この毛布の肌触りが好き、など、自分の「好き」や「お気に入り」をたくさん集めてみて下さい。それを続けているうちに、「何かを選んだり決断したりする時」の価値基準に自身がもてるようにもなってきます。
又、カウンセリングの場、もしくはカウンセラーが”安全地帯”となる場合もあります。
「心の安全地帯」がなかなか見つからない、もしくは「早く心の安全地帯を見つけて、早くこの状態を克服したい」と思った時にカウンセリングを受けるのはとても良い手段といえます。
最後に
愛着障害について学んでいくと、自分の過去に怒りを覚えたり、悔しかったり、悲しい感情が沸いてきたり、やり場のない感情に辛さを感じるかもしれません。
お気持ちは本当にごもっともだと思います。
そんな気持ちを聞いてもらえる相手がいればよいのですが、そもそも話しにくい内容であったり、それ以前に深い内容を信頼して話すほどの関係を作ること自体が、とても難しい事からです。
それでも、1つ試してみてほしい事があります。
まずは、怒りや悲しみ、悔しさを感じているご自身を、自分自身で受け入れてあげてほしいのです。
悲しいと感じたら、「そうだね、悲しいよね」、腹が立つなら「腹がたって当然だよね」と、自分に声をかけてあげて下さい。”自分で自分を受け入れる”というのがどういうことなのか、だんだんと体感的に分かって頂けると思います。
あまりにもやりきれない気持ちでいっぱいの時は、自分で自分を抱きしめたり、ぬいぐるみを抱きしめたりするのも効果的です。クッション等を叩いて、怒りの気持ちを吐き出してももよいでしょう。
先程挙げた症状はとても辛く、人によっては「自分で自分が嫌になる」かもしれませんが、生育環境の中で自分を守って生き延びるために身に着けた手段でもあります。
「今日までよく頑張ってきたね」と、自分をいたわってあげて下さい。
そのうえで、五感をフルに活用して、自分の安全基地を探してみてください。
あなたの人生がこれからより生きやすいものになるよう、心から願っています。
辛い時、苦しい時には、いつでもご相談を承ります。遠慮なく、ご相談下さいね。
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